めっきり読書スピードが落ちてしまった昨今であるが
「オール読物」「問題小説」を10年以上読みつづけていて感じたのは
時代小説を書く女流作家が増えたことであろう。
また池波正太郎に代表されるような「捕物シリーズ」も増えてきたし
藤沢周平ように下級武士の悲哀を書く作家もいて実に頼もしい。
現代物は鋭く経済界を抉る社会物やほのぼのとした
人情物もあって多くの作家が棲み分けしている。
<<<<< さて以下には小生の感じた作家別の評論を記述した >>>>>>>
奥田英朗
「空中ブランコ」でようやく直木賞を取ったが、それ以前からコミカルで
なかなかウィットに富んだ小説を書いてきた。
安心して楽しく読める大衆小説家である。
(特に「精神科医」である主人公に持ち込まれる事案への対応が面白い)
杉本章子
最近特に多くなった時代小説(江戸時代)を書いている女流小説家の代表、
「信太郎」という大店の息子を主人公にしたシリーズを愛読した。
女性から見た商人の世界と人情話に頭を垂れる。
平岩弓枝
大御所であり、「御宿かわせみ」で有名になった重鎮。
多くの作品を手がけているし脚本家としても著名になった。
今でも「続・御宿かわせみ」を「オール読物」に連載していて安定感は抜群。
海堂 尊
現役の医師でありながら小説家でも有る。
「チーム・バチスタ・・・」はあまりにも有名だが「オール読物」に「ひかりの剣」を連載、
なかなか硬派的な内容でありながらも軟派な部分もありついつい引き込まれてしまった。
赤川次郎
一時は作家の高額納税者として上位にランクアップされるだけあって
多作の作家であって、どれを読んでも同じようなストーリーで飽きてしまう。
熊谷達也
衝撃の作品との出会いは「邂逅の森」(直木賞受賞)であったが、
エピローグである怨念の熊とマタギの対決が非現実的である。
秋田や山形のマタギに長い間密着取材して書き上げたのに最後の終わり方が少し残念。
最近は自身が教師をやっていた経験から現代物を書いているが
やはりこの作者には大自然をテーマにした ものが似合う気がする。
石田衣良
「池袋ウェスト・ゲートパーク」で直木賞候補になったのちにみごと「4TEEN フォーティーン」で受賞。
相変わらず「オール読物」に「池袋ウェスト・ゲートパーク」を書き続けているが
毎回、現代の歪んだ世相を彼独特のタッチで書いており若い作家のなかでも好感がもてる。
伊集院静
亡き「夏目雅子」の夫として、また「伊集院歩」の名前で作詞家としての才能も、
「うけ月」で直木賞を受賞後もしみじみとした心情を書き上げて短編を発表している。
特に老人と少年の間に生まれた人間愛や老職人とその弟子との師弟愛を書かせたら超一流。
京極夏彦
和服に黒い皮の手袋(指先が無い)の写真がいかにも「妖怪研究家」ぽい。
「百鬼夜行シリーズ」や直木賞を取った「後巷説百物語」は読んでいてもぞくぞくするほど。
所謂「遠野物語」よりも現代風に脚色した怖さがいい。
津本陽
剣豪小説家で多くの歴史上の剣豪のことを自身の歴史観で書いているが
「オール読物」に連載した「獅子の系譜」は面白く読んだ。
荒崎一海
江戸時代の剣豪物を多く書き、特に「闇を斬る」シリーズが代表作。
「問題小説」で連載している「一膳飯屋・夕月」では武士から飯屋に転じた
主人公の作る料理のレシピが詳細に紹介されており楽しい。
澤田ふじ子
足引き寺閻魔帳シリーズでは元武士である「住職」と「らう屋」(キセル修理屋)、「同心」などが
世の中の小悪人を間引きしてゆく所謂、依頼人のない「仕置き人」ような物語であり
寺で飼われている犬の活躍が大きく物なかに描かれていて犬好きには堪えられないかも・・・。
佐藤雅美
八州廻り桑山十兵衛シリーズ をずっと「オール読物」に連載しており
関八州を旅しながらトラブル解決してゆく内容や当時の地方の農民、商人の
生活模様を物語りのなかに点描するのが独特である。
高橋克彦
だましゑ歌麿 おこう紅絵暦 春朗合わせ鏡 広重・北斎・写楽殺人事件など
自身が「浮世絵研究家」であるからか浮世絵師が主人公の作品が多く
読んでいてその版画絵が思い浮かぶような描写がいい。
イッセー尾形
舞台での一人芝居の名手であると同時にギターを弾いたり多芸でもある。
彼の書く作品もその多くは「問題小説」などで発表されていて面白く読める。
乙川優三郎
2002年「生きる」で直木賞を受賞、それ以前から時代小説を書き
なぜか泣かせる、しみじみとした作品が多い。
松井今朝子
「吉原手引草」で直木賞を取ったのは記憶に新しいが
歌舞伎に関る仕事が長くその為か実に江戸時代の花魁ものに造詣が深い。
時代考証も含めて小説を読みながらそのシーンが目に浮かぶような描写がいい。
山本一力
オール読物「蒼龍」で新人賞、「あかね空」で直木賞を取った頃はまだ良かったが
その後は対談・エッセイと多忙らしくてその後に書いた作品はなにやら皆同じような内容で
鼻についてしまった。
結局は多作すぎて各誌に連載しているものは各話とも短くて
同じような雰囲気で興味が薄れた。
林真理子
この人は圧倒的に女性ファンが多い、作家というよりも文化人としての
立ち位置を意識しているのかもしれない。
小説よりもエッセイが目立って有名人とお友達であることを自慢したり
プチ・セレブであることを文章の裏側に匂わせるように感じるの小生のみか?
小説を読んでいてもそんな事が鼻について新たな本を手にする事はない。