智恵子抄
「東京には空がないといふ・・・」
かの高村光太郎の夫人がつぶやいた言葉で有名な「安達太郎山」に行った。
前回は風とガスでほとんど視界ゼロでの頂上を通り過ぎただけで
「くろがね小屋」で湯浴みをして下山したのだった。
今回はケーブルを使わずに頂上を目指し、且つ縦走する予定である。
前夜、「赤湯温泉」の好山荘に泊まり,車を一台下山口に置いてから
岳温泉スキー場のある登山口にもう一台でむかった。
登山口にはすでに10台ほどの自家用車が並んでいたし
ケーブルの発車を待つ多くの登山客が待機していたが
我々はゲレンデの脇に作られた登山道を歩き始める。
踏み跡が不鮮明だったり脇から伸びた草の様子からして
利用者が少ない事や整備があまり進んでいない実情を味わう。
それでもいい汗をかいてケーブル山頂駅からの道と合流するが
そこはほとんどが立派な木道が設置されている。
ケーブルが運行開始されてから歩き始めた団体客が数グループ
先行していたが小走りにそれらを追い越すと、岩がゴロゴロした
頂上直下の広い場所に飛び出す。
遠くから見ると乳首のようであるが近くではゴツゴツした岩が盛り上がった
5、6mほどの突起が安達太良山の頂上の特徴である。
ガスが広がっていたが時折、視界がひらけるとこれから歩く縦走路が
異様な赤茶けた稜線として眼前に見えた。
次第に増え続ける登山客をきらって早めに縦走路を歩き出す。
鉄山までは左手に硫化硫黄ガスを噴出する異様な岩場を
右手はくろがね小屋を経て岳沢温泉に広がる緑の風景が
妙なコントラストを見せていたがいずれにしてもこの地域は
有毒ガスが滞留しやすくて何度か登山客が亡くなっているので
危険区域に迷い込まないように立て看板や岩にマーキングがある。
鉄山を過ぎるとそこは縦走をする登山客のみの静かな道になり
立派な避難小屋が稜線上に建っていたのでその前で昼食にする。
フランスパンとオイルサーデン、チーズ、胡瓜とミニトマトのサラダ
スープ代わりに「シーフド味カップめん」のささやかな食卓。
3人で2杯の珈琲を分け合って貴重な水を大切にする。
水を補給できない夏の縦走路では行動中の水補給と食事に使う水は
自らが運び上げる水の量でまかなうので大変だ。
今回は各自が2L近く持ち上げたから充分であるが・・・・
後半の箕輪山は遠くから見ると今までと違って緑の山に見える。
鉄山からのピークからやや下って熊笹が生え茂る道を再び
登り始めると次第にリンドウの花が増え始めてきた。
ゆるい傾斜の斜面を登りきるとそこが「箕輪山」の山頂である。
左手には横向スキー場のゲレンデがすぐ近くに迫ってきていて
そこからの登山道のルートが道標に記されていた。
われらは右手の急斜面を駆け下りるように下って
やがて最後のピークになる「鬼面山」に向かう。
今まで登ってきた高度を一気に失うわけだから惜しいのだが
これは下山時に味わう空しい登山者の現実だ。
急斜面を降りきるとなだらかな潅木帯を歩くのだが、
そこに生えている木々の形が風雪に耐えてきた長年の
歴史が刻まれた見事なものであった。
湿原があってもおかしくない草原が時折現れたが、
恐らく長い時間の経過で湿原は消失したのだろう。
「鬼面山」への登りはあっという間に終わってしまいあとは下りだけとなる。
土湯峠までくると国道の「土湯峠」や「横向スキー場」が近づく。
高圧線の鉄塔が立ち並ぶ峠は「フウロウ」や「アキノキリンソウ」が
咲き乱れる花畑が広がっていた。
峠から野路温泉へは10分ほど森閑としたブナ林を歩くと
突然に「野路温泉ホテル」の真横に出てしまう。
かなりゆったりとした縦走路であった。
登山口に置いた車をピックアップしに出かけてついでに
今宵、胃袋に収まるビールなどを仕入れてきてから
好山荘の露天風呂にゆっくりと浸って大宴会に突入した。
リンドウ
ツルリンドウ